激しいトレーニングで増加する活性酸素を除去するために、抗酸化サプリメントが注目されています。しかし抗酸化サプリメントに関する研究で得られた知見には一貫性がありません。今回は抗酸化サプリメントの効果について、さまざまな研究をまとめた論文をピックアップして紹介します。

運動と酸化ストレスの関係

はじめに運動と酸化ストレスの関係について、基本的な内容を理解しておきましょう。

酸化ストレスとは

私たちは日々の食事で栄養素を摂り込み、それを燃焼、つまり「酸化」させることでエネルギーに変換しています。一方で、過剰な酸化反応は細胞を傷つけることがあり、この有害な作用は酸化ストレスと定義されます。

活性酸素と抗酸化物質の役割

活性酸素は体内で酸素が使われる過程でできた副産物で、呼吸により取り込んだ酸素の数%が活性酸素になると言われています。活性酸素は元の酸素よりも酸化する能力が高く、免疫細胞を活性化させるなど重要な役割を果たしています。しかし過剰な活性酸素は細胞を傷つけ、酸化ストレスの原因となってしまうのです。

生成した活性酸素は、体内の抗酸化物質により除去されます。活性酸素と抗酸化物質のバランスにより、体の健康は維持されているのです。しかし激しい運動などで活性酸素が増えると、体内にある抗酸化物質だけでは追いつかなくなります。そこでトレーニング時に抗酸化サプリメントを摂取することが注目されているわけです。

トレーニング中の抗酸化サプリメント摂取に関する論文をまとめたメタ分析

トレーニング中の抗酸化サプリメント摂取についての論文は多くありますが、得られた知見に一貫性はありません。これに対して2011年にTT. PeterneljとJS. Coombesの2人が、抗酸化サプリメントの効果について多くの論文をまとめたメタ分析を発表しています。この分析に用いられた論文は全部でなんと259報。いかに多くの研究結果を調査しまとめているかがお分かりいただけるでしょう。

Antioxidant Supplementation during Exercise Training

ここからはこの分析結果を踏まえながら、抗酸化サプリメントの摂取について解説します。

抗酸化サプリメント研究のこれまでの流れ

「活性酸素の除去には抗酸化物質の摂取が効果的である」という定説のもと、抗酸化物質の効果を評価する研究は1970年代から盛んに行われていました。しかし結果はさまざまで、意見は割れています。分析の中で紹介された論文の結果をいくつか紹介します。

<抗酸化サプリメントに対するポジティブな見解>

・抗酸化サプリメントは運動による細胞のダメージや筋力の低下を防ぎ、炎症反応や疲労を減らした

・コエンザイムQ10*1はクロスカントリー選手のVO2max*2を改善した

・男性アスリートにビタミンC、ビタミンE、βカロテン*1の混合サプリメントを摂取させたところ、最大運動テスト後の血中乳酸*3濃度が低く、プラセボ群と比較して3カ月後のVO2maxが有意に増加した

*1)いずれも抗酸化物質である。

*2)VO2max:最大酸素摂取量のことで、体重1kgあたりが1分間に摂取できる酸素量。VO2maxが大きいほど効率よく酸素を摂取してエネルギー変換のために使えるので、持久力の指標の一つになっている。

*3)乳酸:筋肉に蓄えられている糖質(筋グリコーゲン)が分解されエネルギーを作る過程で発生する物質。かつては疲労の原因物質と考えられていたが、生成した乳酸はエネルギーとして再利用されるものでありむしろエネルギー源である。「乳酸値が高い=疲労」ということではなく、乳酸値の変動とどのような身体的変化があるかを見ることが重要だと考えられている。

<抗酸化サプリメントに対するネガティブな見解>

・水泳、競輪、マラソンの選手において、ビタミンEの摂取はパフォーマンスの向上には効果がなかった

・コエンザイムQ10を摂取して高強度の運動をすると、運動後にはCK *4が上昇しパフォーマンスの向上が見られなかった

・抗酸化サプリメントは酸化ストレスに対する体内の細胞応答(酸化ストレスに順応できる体作り)を妨げる

*4)CK:クレチニンキナーゼの略。筋肉に多く含まれる酵素で、筋肉が障害されると血中に逸脱することから、筋肉のダメージの指標に用いられる。

研究の問題点

ここまで多くの研究がされていながら、一貫した知見が得られていないことに関して、著者らは以下の問題点を挙げています。

研究の母集団が少ない

いずれの研究も被験者は数十名で、統計としては母集団が少ないと指摘しています。ただスポーツに関しては同一条件の被験者を大勢集めることは難しく、アスリートを研究対象とすることの限界だと言えるでしょう。

統計的手法が明示されていない

論文の中には、どのような統計的手法を用いたのか明示されていないものもあったようです。統計の方法にはいくつか種類があり、どの方法を使うかでデータの信頼度も変わってきます。研究者にとって都合のよいデータだけを取り出すと、バイアスが生まれる原因になってしまうのです。

活性酸素の測定系が確立していない

活性酸素は非常に不安定な物質であるため、活性酸素そのものを測定することはできません。現在の測定系では活性酸素が脂質やタンパク質、DNAなどを酸化した物質を測定し、それを酸化ストレスの指標としています。例えば筋肉障害の指標の一つにCKが用いられますが、血中のCKの濃度が上昇したところで、どの程度、どの範囲で筋肉の損傷が起こっているかを判断することは難しいのです。

これまでの知見で得られたものと、今後の展望

著者らはこの分析を通して、「現段階で抗酸化サプリメントの摂取を推奨する証拠は不十分であり、パフォーマンスの向上は見られない」と結論付けています。一方で、これまでの研究結果はスポーツ栄養学的には重要なものであり、サプリメントではなくバランスの取れた食事でアプローチすることがよいのでは、とまとめています。

まとめ

これほどまで多くの研究がされていながら、一貫した知見が得られていないのは、アスリートが抗酸化サプリメントを摂取することの有効性を評価する難しさを表していると言えるでしょう。しかし今もなお酸化ストレスに関する研究は続けられており、関心の深さがうかがえます。

著者らはサプリメントではなく食事でのコントロールを推奨していますが、一方で食事は調理法などによってもその栄養価が大きく変わります。バランスの取れた食事をベースとしながらも、足りないものや食物からの摂取が難しいものはサプリメントで補うのがよいのではないでしょうか。ただしどのサプリメントを選ぶかは、継続的に摂取して自分に合うものを探す必要があります。酸化ストレス、抗酸化サプリメント研究の今後の動向が期待されます。

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