つい最近になるまで、長距離ランナーは筋力トレーニング(以下、筋トレと略します)を熱心に行うことはあまりありませんでした。最大酸素消費量(VO2max)、乳酸閾値(LT)、およびランニングエコノミーなどと言った長距離走で重要なパフォーマンス要素を向上させるには、長時間の耐久トレーニングだけが有効であると長い間信じられてきたからです。一方で、数多くの研究が筋トレは無酸素運動の能力を向上させることを示しています。レースの高速化が進む昨今、長距離走であっても、無酸素運動の能力は重要になりつつあります。そうしたことから、長距離ランナーも筋トレを取り入れる人が多くなってきました。

今回は筋トレが長距離ランナーに対してどのような効果、あるいは逆効果があるのかについて、いくつかの研究結果を調べてみました。

筋トレ効果を肯定する研究

Strength training effects on aerobic power and short-term endurance.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7453510

1980年には既に筋トレが長距離ランナーの心肺能力にどれだけの効果があるかについての研究がなされています。イリノイ大学のヒクソン氏を中心とした研究グループが発表したこの論文では、10週間の調査の結果、VO2Maxに12%の向上が認められたとしています。この際に使われた筋トレの種目はスクワットやレッグプレスなどのパワー・リフティングでした。

Strength Training in Female Distance Runners: Impact on Running Economy

https://www.researchgate.net/publication/232218098_Strength_Training_in_Female_Distance_Runners_Impact_on_Running_Economy

1997年にニューハンプシャー大学のジョンソン氏が中心となって発表されたこの研究では、12人のランナーを2つに分け、1グループに通常のランニングに加えて全身の筋トレを行い、別のグループはランニングのみを行わせました。すると筋トレを行った方のグループはそうでないグループよりランニングパフォーマンス向上率が4%高くなるという結果を得ました。

Effect of resistance training regimens on treadmill running and neuromuscular performance in recreational endurance runners.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21854344

2011年に国際スポーツ医学ジャーナルにミッコラ氏らが発表したこの論文では長距離ランナーに高重量のスクワットやレッグプレスを行わせたところ、トレッドミル走における持久力が向上し、特にレース終盤でのスパート局面に大きな効果があるだろうとしています。

The impact of resistance training on distance running performance.

http://europepmc.org/abstract/MED/12762828

アラバマ大学のジュン氏によるこの論文では筋トレがもたらす無酸素運動能力と神経筋の向上が長距離ランナーのパフォーマンスを上げる効果があると結論づけています。

筋トレ効果を否定する研究

このように筋トレが長距離ランナーにとっても有効だとする論文が多数を占める中、それを否定する論文も少ないながらも見つけることが出来ました。

Effects of Heavy Strength Training on Running Performance and Determinants of Running Performance in Female Endurance Athletes.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26953893

2016年にノルウェー・リレハンメル大学のビクモーン氏らが中心となって発表したこの研究では、女性の長距離ランナーを対象に高重量の筋トレを行うグループとランニングのみを行ったグループに分けて調査したところ、ランニングパフォーマンスに大きな違いが生じなかったとしています。

研究の限界

筋トレが長距離ランナーにもたらす効果(あるいは逆効果)については数多くの研究がなされていますが、その殆どがスクワットやレッグプレスなどの筋肥大トレーニングについてのみを対象にしていて、それ以外の種目、特に瞬間的パワーを強めるウェイト・リフティング(スナッチ、クリーン&ジャーク)を含めたものは見つかりません。

一言で筋トレと言ってもいくつもの種類があり、様々なやり方があります。それを行うことによる効果も当然異なります。筋トレが長距離走に効果があるか否かというようなイエス・ノーの二者択一ではなく、ある特定の筋トレ種目ごとにランニングパフォーマンスへどれだけの効果があるのか、あるいはどのようなメニューを組めば効果が上がるのかなどといった、より個別の事例を調べる研究が今後はますます必要になるでしょう。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

 

コメント一覧

全1件のコメント

  1. 2020年1月17日 16:53

    […] 参照記事:「筋力トレーニングがランニング・パフォーマンスに与える効果・逆効果」 […]

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