6月6日のイギリスの公共放送局BBCニュースのオンライン版で「人間の究極的な耐久能力の限界が明らかに」というタイトルの記事が配信されました。

記事:https://www.bbc.com/news/health-48527798

アメリカ科学振興協会(AAAS)が発行するオンライン科学雑誌「Science Advances」で発表された論文を紹介したものです。

論文:https://advances.sciencemag.org/content/5/6/eaaw0341

「人間の究極的な耐久能力の限界」をテーマに、北米大陸横断フットレース(Run Across the USA)やツール・ド・フランスなどの長期間に渡る耐久競技を対象に調べたものです。

持続可能なエネルギー消費は安静時代謝量の2.5倍

論文によりますと、個人の安静時代謝(Resting Metabolic Rate、RMR)の2.5倍が持続可能なエネルギー消費の限界値であるとしています。平均的な体格の男性ですと1日4000カロリーが目安になります。それ以上の負担を長期的に継続することは不可能であるともしています。

研究はまず北米大陸横断フットレース(Run Across the USA)の参加者を対象に始まりました。このレースはカリフォルニアのハンティントンビーチ市からワシントンDCまでの3080マイル(約5000キロ)を140日かけて走るものです。競技者はおよそ週に6回フルマラソンの距離を走り続けることになります。

安静時代謝はその名の通り、安静にしているときに必要とされるエネルギーのカロリー量です(*)。競技者のこの値がレース前及びレース中に測定されました。そしてレースで消費されたカロリー量も測定されました。

*安静時代謝は身長、体重、性別、年齢から推測することが出来ます。

安静時代謝量の推測計算サイト

研究では、エネルギー消費は開始時には高い数値に達しても、最終的には安静時代謝の2.5倍に収まるとしています。

競技期間とエネルギー消費

この研究は競技期間とエネルギー消費の間にパターンがあることも発見しました。競技期間が長くなれば長くなるほど、カロリーを消費するのが難しくなります。

つまり、短期間であれば安静時代謝を大幅に越えることが出来ますが、長期間に渡ってそれを行うことは不可能だということです。

マラソンを1回走ることは人間の限界とは言えませんが、それを長期間に渡って続けることは出来ない。平たく言えばそういうことになります。

  • マラソン・ランナーは安静時代謝の15.6倍のエネルギーを消費する。
  • ツール・ド・フランス(23日間)のサイクリストは安静時代謝の4.9倍を消費する。
  • 南極トレッキング(95日間)の参加者は安静時代謝の3.5倍を消費する。

共同研究者であるデューク大のポンザー博士は「数日間だけなら無理と思えるようなことも出来ますが、それを続けるにはペースダウンが必要です」と語っています。

博士はさらに「全てのデータ、全ての競技はある一定の限界値に収斂していきました。その値を超えた人間はいませんでした」と続けています。

体力の限界ではなく、消化機能の限界

研究では妊娠中の女性が消費するエネルギー量は限界値に近い安静時代謝の2.2倍に達することもあるとしています。

この2.5倍という数値は心肺能力や筋力ではなく、人が消化できる量に起因するものと見られています。それ以上のエネルギー消費に必要なカロリーと栄養素を消化吸収する仕組みが人間にはないということです。

短期間の競技であれば、人は脂肪や筋肉組織から提供されるエネルギーを使って乗り越え、その後で回復することが出来ます。

しかし、人間の限界に挑むような長期間の競技になると、人はエネルギー消費のバランスを取らなくてはいけません。

ポンザー博士は多くの耐久競技アスリートが自らの生理的限界を知り、より賢明なペース配分や長期間のトレーニング計画を行ううえで、この発見が大いに役立つだろうと語っています。

理論上の限界を超えた人達

ここまではBBCの記事を基に、出来るだけ忠実に論文の紹介をしてきましたが、筆者にはどうしてもこの最新理論では説明できない人がいると思えてなりません。

例えば、比叡山延暦寺の千日回峰行はどうなるのでしょうか?

千日回峰行とは1000日に渡り、山中の険しい道を1日30~80㎞走破し、しかも期間中の食事は1日2回の粗食のみ、という凄まじい修行です。さらには700日後には9日間の断食・断水・断眠まで行うそうです。

1100年間で達成者は僅かに51人(2回達成した人が3人)しかいないということですが、その人達も紛れもなく人間であったことには間違いありませんから、上の研究が正しければ、理論上は出来るはずはないことをやってしまったことになります。

人間の限界はまだ科学では完全に説明できないのではないでしょうか。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

 

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