マラソンでもハーフマラソンでも、あるいはどの距離のレースであっても、ランナーが自己新記録を達成したいと思ったとき、レース当日の天候はタイムを左右する大きな要素の1つです。

マラソンなら距離は42.195キロと決まっていますが、その同じ約42キロでも酷暑の中で走れば、快適な気温の日に比べたらタイムが落ちるのは誰でも容易に想像がつきます。日本の場合、マラソンレースの多くが秋から冬の時期に開催されるのは理にかなっていると言えるでしょう。

実際のところ、天候要因がランナーのパフォーマンスにどれだけの具体的な影響があるかについて比較研究した論文を紹介します。

フランスの国立スポーツ生物医学的および疫学的研究所(IRMES)のNour El Helou氏らが中心となって2012年3月に発表した論文です。

Impact of Environmental Parameters on Marathon Running Performance

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0037407

研究の内容

2001年から2010年までの10年間に開催された6つの大規模市民マラソン(パリ、ロンドン、ベルリン、ボストン、シカゴ、ニューヨーク)に参加した合計1,791,972人のランナーの属性(性別、年代)とタイム、そして以下に挙げるレース当日の天候要因との関係を分析したもの。

  • 気温(°C)
  • 湿度(%)
  • 露点温度(°C)
  •  海面レベル気圧(hPA)
  • 4種類の大気汚染物質(NO2, SO2, O3, PM10の濃度(μg.m−3)

分析の結果

5つの要因のうち、男女すべてのグループに属するランナーのパフォーマンスに最も大きな相関関係が認められたのは気温でした。ランナーのレベルによって最適の気温は異なりますが、レース当日の気温がそれを上回れば、ランの平均スピードは落ち、棄権率は高まります。気温以外の天候要因にはランニングのパフォーマンスに大きな影響をもたらすものはありませんでした。

ちなみに分析の対象になったレース中(スタートから4時間)の平均気温の最低値は1.7°C(2009年シカゴ)、最高値は25.2°C(2004年ボストン)でした。

例1:タイム上位25%以内の男性グループの平均スピード

気温2~10°Cまでが平均スピードが最も高く(秒速3.3m前後)、それより気温が高くなると、平均スピードは下がり始め、気温25°Cになると秒速3.0mをやや下回る。

つまり、気温25°Cの状態ではペースは平均して気温10°C以下の状態と比べて10%程度落ちる。

例2:全ランナーの棄権率

気温2°Cの棄権率は約11%。それから気温が上がるにつれて棄権率は下がり、気温12°C前後で棄権率は最低の約2%になる。そこから気温の上昇とともに棄権率が上がり、気温25°Cでは約16%になる。

つまり、気温25°Cの状態では棄権率は気温12°Cのときと比べて約8倍になる。

筆者の考察

上の結果からすると、10~12°Cぐらいの気温が最もマラソンに適していると言えるようです。ならば、ベストタイムを目指すなら、そのぐらいの気温になるだろうと予測できる場所と季節のレースを選ぶべきでしょう。

例えば、来年の東京マラソンの開催日は2020年3月1日です。気象庁のデータによりますと、東京の同日の1980年~2010年までの平均値が、日中平均気温は6.7°C、最高気温は11.5°C、最低気温は2.6°Cとなっています。スタートは午前9時10分ですので、やや気温が低いことが難ですが、まずまずのコンディションと言えるでしょう。

http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/monthly_s3.php?prec_no=44&block_no=47662

一方で北海道マラソンは2019の8月25 日に行われます。同じく気象庁のデータによりますと、札幌の同日の1980年~2010年までの平均値が、日中平均気温は21.7°C、最高気温は25.7°C、最低気温は19.4°Cとなっています。午前9時のスタートですので、サブ3でもゴールは正午、サブ4なら午後1時ぐらいまで走ることになります。かなりの高温の時間帯となり、こちらは好タイムを出すのは難しそうです。

http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_d.php?prec_no=14&block_no=47412&year=&month=8&day=&view=p1

もちろん、これは過去の統計からみた予測に過ぎません。現実にレース当日の気温がどうなるかは、その日が近づくまではわかりません。季節外れの高温や低温に見舞われることがあるかもしれませんし、大雨が降るかもしれません。いくら場所と季節を慎重に検討してレースを選んだとしても、思い通りの天候の下で走ることが出来るかどうかは、まさに天に任せるしかありません。

暑い日のラン対策

天候を自分でコントロール出来ないとなると、暑くなった場合の対策を講じなくてはいけないのですが、米国ストレングス&コンディショニング協会のガイドラインでは高温化での耐久系スポーツについて以下のことを推奨しています。

(Haff G. & Triplett T. (2016). Essentials of Strength Training and Conditioning, (4th ed.).  Human Kinetics., pg. 256)

  • 1週間前から予想される気温での運動に徐々に慣れておく
  • 24時間前から水分補給を行う
  • 運動中は充分な水分補給を行う
  • 色の薄い、体を締め付けない衣服を着用する
  • 可能であれば心拍数をモニターする
  • 体調の変化に注意する
  • 過度な水分の摂りすぎにも注意する

最近の日本の夏は亜熱帯化していると言われるほど、厳しい暑さの日が続きます。上の研究で元になったデータでは日中平均気温の最高値は25.2°Cでしたが、それ以上の気温はむしろ当たり前でしょう。レースに限った話ではなく、普段のランやジョギングでも細心の注意が必要です。

個人的には、夏はなるべく屋外を走らないほうがいいですよ、とアドバイスしたいぐらいなのですが、そうは事情が許さない人、暑くても構わないから走りたい、という人もいるでしょう。くれぐれも無理は禁物です。暑い日は普段と同じように走れなくて当然なのだということを覚えておいてほしいと思います。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

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