天候要因、特に気温がランナーのパフォーマンスにどれたけの影響があるかについて調べた論文を前の記事で紹介しました。結論として、暑い日はなるべく走らないほうがいいし、いつものようなパフォーマンスを発揮できなくても当たり前ですよとも述べました。

ところが、暑くなることがわかっている季節に本番レースがあって、どうしてもその日に走らなくてはいけない人もいます。先の記事では例として8月に行われる北海道マラソンを挙げましたが、他にもウルトラマラソンの多くは日照時間が長い夏に行われます。有名なサロマ湖100キロウルトラマラソンは毎年6月下旬の開催です。

同じ理由から、暑い時期に屋外での長時間の運動を余儀なくされるサイクリングやトライアスロンの選手達にとっては、いかに暑さに体を順応させるかは大きな課題で、今までにも様々な研究がなされてきました。

暑さに体を順応させる方法

暑さに体を順応させるためにもっとも単純で効果的な方法は、あらかじめレースと似た気候の中で練習をすることです。大変につらい方法ですが、幸いなことに、それほど長い期間をかけなくても、1~2週間で充分な効果があるようです。

2015年にSports Medicineに発表された共同声明では以下のように結論づけています。

Consensus Recommendations on Training and Competing in the Heat

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4473280/

  • 暑い日に競技をする予定があるアスリートは高温下での運動に順応する必要がある。
  • 順応するには1日当たり60分以上の運動が必要とされる。
  • 順応するには、なるべく本番と似た状況下で運動することが望ましい。
  • 順応効果は最初の数日で現れる。最大効果を得るためであっても、順応に要する期間は1~2週間。

サウナの効用

いくら1~2週間だけであっても、本番レースと同じ暑さで練習するというのはあまりにも身も蓋もない、と考える人もいるようです。仮に高温順応は出来ても、肝心のトレーニング効果が下がるかもしれませんし、本番前に疲労で体を壊してしまっては元も子もありません。そこで、もっと短期間に効率よく高温に体を順応させる方法としてサウナを用いた研究があります。2015年にヨーロッパ応用生理学ジャーナルに発表された以下の論文はその一つです。

Effect of sauna-based heat acclimation on plasma volume and heart rate variability.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25432420

この研究では、7人のサイクリストに練習直後に30分間87 °Cのサウナに入ってもらいました。すると、わずか4日後には血漿量が17.8%増加するという顕著な結果が得られました。理論的には、血漿量の増加は心血管の機能を安定させ、体内の冷却効果を高めることに繋がります。

以下の論文は2007年とかなり以前に発表されたものですが、6人の長距離ランナーに週3日のペースで練習後に88 °Cのサウナに入ってもらったところ、3週間後のタイムトライアルでは平均して1.9%のタイム向上が見られました。

Effect of post-exercise sauna bathing on the endurance performance of competitive male runners

https://www.jsams.org/article/S1440-2440(06)00139-3/fulltext

学術研究ではありませんが、トレイルランの雑誌「Trail Runner Magazine」では、世界的に有名なウルトラマラソン・レースであるウェスタンステイツ100(160キロ)で2017年に優勝したキャット・ブラッドレイ選手がレース前の数週間にサウナを使ったエピソードを紹介しています。レース当日の気温は35°Cに達しました。

記事:https://trailrunnermag.com/training/heat-acclimation-for-athletes-that-hate-the-heat.html

専門のサウナ店は勿論、サウナが設置してあるジムや銭湯はたくさんあります。リラックスするため、あるいは美味しいビールを飲むことが目的なのかもしれません。その上、サウナには暑さに体を順応させる効果まであるのだとしたら、少なくとも試してみる価値はある、と思うのですが、いかかでしょう。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

 

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