金哲彦氏の著書「体幹ランニング」に代表されるように、体幹を使って走ることの重要性はほぼ市民権を得ていると言えるでしょう。ランナーでなくても、サッカーの長友佑都選手によって、体幹トレーニングは広く一般に知名度を広げました。

しかしながら、体幹トレーニングが実際にランニングのパフォーマンスを上げる効果はあるのか?となると、その問いに明確な答えを出すことは難しいようです。体幹トレーニングの成果は客観的に把握しづらいことが理由の1つ。ベンチプレスを○○キロで何回挙げた、という風に、体幹トレーニングの結果は数字で成長度を測ることができません。もう1つの理由は、体幹の筋力とランのパフォーマンスの相関関係を判断することが困難であることでしょう。例えば、VO2Maxの数値が上がればランのタイムが向上することは誰の目にも明らかなのですが、体幹の筋力に関してはそうではありません。

そのようなわけで、なんとなく流行りだからという理由で体幹トレーニングを取り入れるランナーもいるでしょうし、流行りものだから逆に信用できないと言うあまのじゃくなランナーもいるでしょう。

そこで、あえてこの困難な体幹トレーニングとランの関係について研究した論文を探してみました。

 

研究1:トライアスリートは体幹の筋肉を使って走っている

 

Trunk muscle activation during moderate- and high-intensity running.

Behm DG1, Cappa D, Power GA.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20029508

 

実際のところ、体幹を鍛えたところで、その筋肉は本当にランニングに使われているのか? そんな疑問について調べた研究です。

研究ではトライアスリートのグループとあまりスポーツをしない一般人グループにトレッドミルを30分間走ってもらい、その両グループの外腹斜筋、下腹部、上部腰椎脊柱起立、および腰仙椎脊柱に筋電図をあて、その数値の推移を観察しました。

その結果、鍛え上げられたトライアスリートほど、走るときにはこれら体幹の筋肉活動が大きくなっていることがわかりました。トライアスリートが一般人より無駄な動きをしているわけはありませんので、やはり体幹を使って走ることには意味があると言っていいでしょう。

研究2:ピラティスは5キロ走のタイムを向上させる

 

Pilates training improves 5-km run performance by changing metabolic cost and muscle activity in trained runners.

Finatto P1, Silva ESD1, Okamura AB1, Almada BP1, Storniolo JLL2, Oliveira HB1, Peyré-Tartaruga LA1.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20029508

 

ピラティスは元々がリハビリを目的に開発された健康法で、本来なら体幹トレーニングの範疇に収まるものではありません。しかしながら、体幹を鍛えることを目的にピラティスを行う人が多いこともまた事実です。

この研究もピラティスをすることによって体幹の筋力が鍛えられるということを前提にして、32人のランナーをランとピラティスの両方を行うグループとランのみを行うグループに分けました。12週間の実験期間終了後、ピラティスを取り入れたグループの5キロ走のタイムはもう一方のグループより大きく向上したことが確認されました。

論文の著者らはこれをもって、長距離ランナーは体幹の筋力を鍛えるトレーニングをするべきだと結論づけています。

研究3:体幹の筋力がパフォーマンスに果たす役割

 

The Role of Trunk Muscle Strength for Physical Fitness and Athletic Performance in Trained Individuals: A Systematic Review and Meta-Analysis.

Prieske O1, Muehlbauer T2, Granacher U2.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26589515

 

こちらは体幹の筋力と様々なスポーツ選手のパフォーマンスについて研究した既存の論文を解析したシステマティック・レビューとメタ解析です。従って、ランに限定した話ではありません。

論文著者らの結論では、いわゆる体幹トレーニングは体幹部分の筋力を向上させるが、それは競技パフォーマンス向上には直結しないと述べてきます。対象になったスポーツには5キロ走も含まれているとのことで、上述のピラティスについての研究とは真逆の結論です。

 

まとめ

良いランナーは体幹の筋力を使う(研究1)。体幹トレーニングは体幹の筋力を向上させる(研究3)。それならば、体幹トレーニングをすれば、走るのが速くなる、と論理的には繋がるはずですし、研究2の結論とも合致するのですが、そうではないよとする研究結果もある(研究3)ということで、話は振り出しに戻ってしまいます。

私個人の見解は、体幹の筋力が重要なことは確かであるけれど、体幹だけを目的としたトレーニングの優先度はランや他の筋トレに比べて低くするべきだと思います。何故なら、体幹はそれら競技本来のトレーニングによっても副次的に鍛えられるものだからです。

 

 

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。

【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani

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