走る前や後にストレッチをする習慣を持つランナーは多いでしょう。特に学生時代に陸上競技を本格的にやった人ほど、部活で叩き込まれたルーチンが身についていて、ストレッチをしないとどうも落ち着かないなんてこともあるようです。

尚、ストレッチには同じ姿勢でじっとして筋肉や関節を伸ばす静的ストレッチと動きを伴う動的ストレッチがありますますが、ここではより一般的な静的ストレッチに限って話を進めます。

静的ストレッチにはウォーミングアップ効果がないことはよく知られてきました。ウォーミングアップの目的は体温と心拍数を上げて、運動に備えること。じっと座ったり、寝ころんだりしていても、その目的を果たすことはできません。かえって体は冷えてしまいます。このことは誰の目にも明らかですので、あえてデータを取り上げる必要もないと思います。

さらには運動前に静的ストレッチをすると、かえって競技パフォーマンスが下がってしまうとする研究も出てきました。特に大きなパワーを発揮する筋力には悪影響があるようです。

 

Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review.

Simic L, Sarabon N, Markovic G.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22316148

 

そうなりますと、静的ストレッチは走る前ではなく、走った後のクールダウンやリカバリーに活用するのが合理的のように思えてきます。そのように指導をするコーチは多いでしょう。ウォーミングアップには向かないとしたら、静的ストレッチをするとアスリートにとってどんなメリットがあるのか? 一般的には以下の2つが挙げられます。

  • 怪我の予防
  • 疲労回復効果

今回はこの2点について研究した論文を紹介します。

 

研究1:ストレッチは本当に怪我の予防になるのか

 

The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: A systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials

Jeppe Bo Lauersen, Ditte Marie Bertelsen, Lars Bo Andersen

https://www.researchgate.net/publication/257530132_The_effectiveness_of_exercise_interventions_to_prevent_sports_injuries_A_systematic_review_and_meta-analysis_of_randomised_controlled_trials

 

一般的に怪我の予防に役立つとされる「ストレッチ」、「筋力トレーニング」、「固有受容感覚トレーニング」、「複合アプローチ」の4つのグループに分け、それぞれが怪我の予防にどれだけ効果があるかを、既存の研究を調査したメタ解析論文です。対象となった25の研究で、延べ26,610人、合計で3,464の怪我について解析が行われています。

その解析結果は、怪我の予防に最も効果があるのは「筋力トレーニング」、次に「固有受容感覚トレーニング」と続き、「ストレッチ」は最下位でした。ストレッチが怪我を誘発するわけではありませんが、その予防のためにストレッチを行うのは、あまり意味がないという結論になります。

 

研究2:ストレッチは本当に疲労回復効果があるのか

 

Using recovery modalities between training sessions in elite athletes: does it help?

Barnett A.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16937953

 

激しい運動をした後で、次の運動を行うまでの間にいかに疲労から回復するかは様々な方法が推奨されています。この研究ではその様々な方法 ― マッサージ、積極的休養、クリオセラピー、冷水入浴、酸素セラピー、抗炎症薬、加圧衣服、ストレッチ、電気筋刺激、これらの複合アプローチ - について、激しい運動の後に血中から乳酸を除去する能力にどれだけ寄与するかという観点で比較しています。

その結果、上に挙げたどの方法も(勿論ストレッチも含みます)、疲労回復にさほどの効果はないとしています。疲労回復に効果があるのは休養だけだというのがこの研究の結論です。つまり、激しい運動をした後は、ストレッチをするより、ただ寝転がっている方が、次の練習までに回復するには合理的だということになります。

 

まとめ

 

こうして調べていくと、静的ストレッチを行うべき理由が希薄に感じてしまいます。ウォーミングアップにはならない、かえって競技パフォーマンスを下げることもある、怪我の予防にも繋がらないし、疲労回復の効果も薄い。

後は柔軟性の向上くらいしか、それでもあえて静的ストレッチを行うメリットを考えつきません。これもまた動的ストレッチやPNFストレッチの方があるいは効果が高いのかもしれませんが、静的ストレッチを続ければ、体は柔らかくなっていくことは間違いありません。ただ、他のスポーツはともかくとして、ランナーにとって柔軟性の向上はパフォーマンス向上に繋がるのか?ということはまた別の問題になります。

個人的には、静的ストレッチには心理的効果が大きいと思っています。とくに寝る前にストレッチやヨガをすると眠りに入りやすい「気が」するので、これからもやめるつもりはありません。

 

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

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