ランニングは健康に良いと一般的には思われています。私自身は必ずしもそうとは言い切れないのではないかと思ってはいるのですが、日常的にランニングをする人は○○の疾患リスクが低いとか寿命が長くなるみたいな話はよく目にします。

ところが、ランニングをすることによってかえって体に悪い影響が出ることもないわけではありません。そのうちの一つが貧血です。

貧血になると動悸や息切れ、集中力の低下などの症状が起こります。スポーツ選手の場合はそのような症状が記録の低迷に直結します。特に長距離ランナーには貧血になるケースが他より多いと言われていますので、実際にそうなのかを調べた研究を紹介します。

鉄欠乏症による貧血

貧血の原因の1つとされているのが、体内の鉄分量が不足する鉄欠乏症です。長距離ランナーは大量の汗をかきます。汗の中には鉄分も含まれていて、汗と一緒に皮膚から失われていきます。また、激しい運動のために食欲が落ちるか、あるいは意図して減量をした場合、必要な鉄分を食事から摂取できないこともあります。

全身に酸素を運搬するのは血液中のヘモグロビンです。鉄分は血液中のヘモグロビンを生成するに不可欠な栄養素です。従って、鉄分が不足すると、ヘモグロビンもまた不足しますので、ランナーは筋肉に充分な酸素を送り込めなくなってしまいます。

本当にそのようなことがランナーに起きているのかを調べたのが下の論文です。

The frequency of anemia and iron deficiency in the runner.

Balaban EP. et al., 1989

https://europepmc.org/abstract/med/2626086

 

この研究では72人のランナー(男性35人、女性37人)と48人の非ランナー(男性27人、女性21人)の血液中のヘモグロビン濃度を比較しました。被験者の年齢と性別にかかわりなく、ランナーの平均ヘモグロビン濃度は非ランナーのそれと比べて低いことが明らかになりました。論文著者らはランナーに鉄分のサプリメントを摂取することを推奨しています。

溶血による貧血

貧血のもう1つの原因とされているのが溶血です。激しい運動をすることによって毛細血管が傷つけられて失血することがありますし、ランナーが着地の度に足裏を地面に強く叩きつけることを繰り返すことによって、その部分の赤血球が壊れて血中の鉄分も流出するとも考えられています。

この溶血とランナーの関係について調べたのが下の論文です。

Gastrointestinal Blood Loss and Anemia in Runners.

Stewart JG. et al., 1984

https://annals.org/aim/article-abstract/698556/gastrointestinal-blood-loss-anemia-runners

 

この研究では24人の競技ランナーから10〜42.2 kmのレースの前後に血液と便のサンプルを摂取し、それぞれの年齢と性別が合致する非ランナーと比較しました。ここでもランナーのヘモグロビン濃度は非ランナーのそれより有意に低いことがわかりました。論文著者らは長距離のランニングは消化管からの失血を引き起こし、そのことが鉄欠乏、ひいては貧血の一因となる可能性があるとしています。

貧血への対策

上に挙げた論文が発表されたのは1980年代です。ランナーが貧血に陥りやすいということ自体は定説になっていると言ってよいでしょう。

ランニングによって血液から鉄分が失われるのなら、ランナーはそうでない人より多くの鉄分を含む食事を摂る必要があります。食べ物に含まれている鉄には『ヘム鉄』と『非ヘム鉄』の2種類があり、ヘム鉄はレバーなど赤身の肉や魚に多く含まれ、非ヘム鉄は野菜や豆などの植物性食品に多く含まれます。つまり、バランスの良い食事をすることが貧血にならないために重要な対策なのですが、食事では必要な鉄分量に追いつかない場合には鉄分のサプリメントで補うことになります。

さらに貧血の症状が重い場合には鉄剤注射で直接鉄分を体に入れる治療方法があるのですが、高校駅伝の指導者らが選手の競技力を高める目的でこの鉄剤注射を行っていたことが最近問題になりました。鉄剤注射には貧血の治療効果はありますが、その反面、鉄が過剰になると、骨がもろくなるほか、様々な健康障害を引き起こす恐れがあるので、安易に行うべきではありません。日本陸連では「不適切な鉄剤注射の防止に関する ガイドライン」を発表し、鉄剤注射に対する注意喚起を行っています。

 

角谷剛(かくたに・ごう)

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