ランニングをする人はしない人と比べると平均寿命は長くなるか? この問いに答えようとした学術研究が数多く行われています。それらの多くは内容や程度に多少の差異はあるにしても、概ねランニングをすると長生きするという結論を導いています。ランナーに好まれやすく、人目につきやすいからでしょうか、こうした研究結果は多くのメディアに引用されます。

今回はその代表的な論文をいくつか紹介するとともに、こうしたデータが都合よく解釈されているケースについても指摘したいと思います。

 

たった週1回のジョグでも死亡率を大幅に下げる(引用見出し例)

 

ランニングの量と心血管系およびがんによる死亡のリスクとの関連を調査したのが下の論文です。既存の研究を複合的に解析したもので、英国のスポーツ医学雑誌に発表されました。

 

Is running associated with a lower risk of all-cause, cardiovascular and cancer mortality, and is the more the better? A systematic review and meta-analysis.

Pedisic. et al., 2019

https://bjsm.bmj.com/content/early/2019/09/25/bjsports-2018-100493

 

この研究では14の既存の研究を選び、延べ23万2149人を対象に5.5年から35年の期間に渡って調査解析しました。

 

結果:

  • どのような量のランニングであっても、全く走らない人と比べると、ランナーはすべての原因による死亡率が27%低くなる。
  • どのような量のランニングであっても、全く走らない人と比べると、ランナーは心血管系病気による死亡率が30%低くなり、同じくがんによる死亡率は23%低くなる。
  • 週1回、50分以内、時速8キロ以下のペースでジョギングを行うだけですべての原因による死亡率を大幅に下げる効果がある。

 

論文著者らは軽い程度のランニングが寿命を伸ばすことは間違いないが、より多く走ればより寿命が長くなるかどうかは不明だとしています。また、解析対象となった14の研究は数も充分であるとは言えず、それらの研究方法もまちまちであるため、ランニングが寿命を伸ばす原因については究明することが出来ないと限界を認めています。

 

1時間のジョギングで寿命が7時間延びる(引用見出し例)

 

上と同じようにランニングと死亡率の関連についての過去の研究(2014)をさらに再解析した論文(2017)が大きな話題になりました。

 

元の研究:

Leisure-Time Running Reduces All-Cause and Cardiovascular Mortality Risk.

Lee D. et al., 2014

http://www.onlinejacc.org/content/64/5/472

 

再解析した研究:

Running as a Key Lifestyle Medicine for Longevity.

Lee D. et al., 2017

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28365296

 

元となった研究では5万5317人の成人(18歳から100歳まで、中央値は44歳)を対象に、ランニングと死亡率の関連について調査しました。

 

結果:

  • どのような量のランニングであっても、全く走らない人と比べると、ランナーは早死をする確率が25~40%の範囲で低くなる。
  • どのような量のランニングであっても、全く走らない人と比べると、ランナーの寿命は約3年長くなる。
  • ランニングの強度、距離、頻度に関わらず、また、喫煙、飲酒などの悪しき生活習慣や肥満度に関係なく、ランニングを日常的に行うことで寿命を伸ばす効果がある。

 

この論文のデータから平均的なランニングの量と平均寿命を再計算して、「1時間のジョギングで寿命が7時間延びる」という非常に目立つタイトルの記事を掲載したのが米国大手紙のニューヨーク・タイムズです。

記事:https://www.nytimes.com/2017/04/12/well/move/an-hour-of-running-may-add-seven-hours-to-your-life.html

この記事はさらに多くのメディアに転載または翻訳されましたので、どこかで目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

 

筆者の考察

 

ランニングに限りませんが、人間の寿命と何かの関連について研究観察したものは、純粋にデータとしては信頼性が低いと思います。信頼できるデータとは同じ条件下で再現性が保証されなくてはいけません。ところが、ランニングと寿命の間で因果関係があるかどうかを調べようとしても、研究者はある人には走ってもらって、またある人には走ることを禁止して、その経緯を40年間に渡って観察するというわけにはいきません。仮にそれが出来たとしても、ランニング以外の食事や睡眠などの生活習慣を強制するわけにはいきません。つまりランナーと非ランナーの寿命を同条件で比較することは不可能なのです。

人が死亡するには多くの原因があるように、長生きをする人には多くの理由があります。元々健康な人が走り始めるのかもしれないし、遺伝的に長命なのかもしれないし、食事の内容が良いのかもしれません。走れば長生きできると自分が信じることには何の問題もありませんが、そのことをもって他人にランニングを勧めるのはどうだろうか、と個人的には感じます。

 

動物実験では

 

人体実験は出来なくても、ラットを使った研究なら可能です。それを行ったのが下の研究です。

 

Effect of voluntary exercise on longevity of rats.

Holloszy J. et al., 1985

https://www.physiology.org/doi/abs/10.1152/jappl.1985.59.3.826

 

この研究では実験マウスの運動量と寿命の関連について調べています。自動回転する車輪を走る運動を行うグループとそれをしないグループとの間には平均寿命に大きな差は生じませんでした。むしろ、食事の量をコントロールするグループと無制限に食べさせたグループとの間で平均寿命に大きな違いが認められました(前者が長くなった)。

勿論、動物実験と同じ結果が人間にそのまま起きるとは断言できません。しかしながら、何事かを示唆しているのではないか、とこれも個人的には考えます。

 

角谷剛(かくたに・ごう)

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