ウルトラマラソンの世界で最も有名なランナーと言えばスコット・ジュレク氏ではないでしょうか。ウエスタンステイツ(160kmトレイルレース)7連覇(1999-2005)、スパルタスロン(246km)3連覇(2006-2008)、バッドウォーター・ウルトラマラソン(217㎞)2連覇(2005,2006)、など前人未踏の輝かしい業績を誇り、クリストファー・マクドゥーガル著のベストセラー『BORN TO RUN』(日本語訳)にも重要人物の1人として登場します。

ジュレク氏はまたヴィーガン(完全菜食主義者)であることでも知られています。ミネソタ州で生まれ育ったジュレク氏は普通のアメリカ人と同じように肉食とジャンクフード中心の生活を送っていましたが、本格的に長距離ランナーとして活動し始めた20代中頃から菜食主義を取り入れています。

ジュレク氏の著作の1つに『EAT&RUN』(日本語訳)というタイトルの自伝があります。氏が辿ってきた食生活の変遷とランナーとしての経歴を語ったものです。各章の終わりには氏が料理するレシピも出てきますので、実際に有用な本でもあります。ご一読をお勧めします。

また、ジュレク氏は最近公開されたドキュメンタリー映画『The Game Changers』にも登場しています。様々なスポーツ分野の菜食主義のアスリートたちを紹介したこの映画では、ジュレク氏が2015年に達成した全米14州にまたがる3,522kmのアパラチアン・トレイル(長距離自然歩道)の世界新記録樹立(46日8時間7分)の記録が大きく取り上げられています。

この映画は日本のネットフリックスでも配信されています。

邦題:ゲームチェンジャー スポーツ栄養学の真実
https://www.netflix.com/jp/title/81157840

ちなみにこの映画では持久力系アスリートだけではなく、重量挙げやボディビルなどのパワー系競技選手も多数出てきます。大変に興味深い内容ですので、こちらもぜひ観ることをお勧めします。

ビーガンとPlant-based Diet(植物由来の食生活)の違い

ジュレク氏の食生活はあるときには「ビーガン」と呼ばれ、またあるときは「Plant-based Diet(植物由来の食生活)」と呼ばれることがあります。両者はほぼ同意で、要するに菜食主義のことなのですが、前者が宗教的、哲学的、地球環境などの信条を含めたライフスタイルそのものを指すことが多いのに対して、後者は健康やアスリート能力向上を目的とした広義のダイエット法(食生活)の1つだと言ってよいでしょう。以後、本稿では「Plant-based Diet」に用語を統一します。

ジュレク氏が『EAT&RUN』でも『The Game Changers』でも繰り返し強調しているのが、Plant-based Dietがもたらす回復力を高める効果です。この食事法に切り換えてから、激しい練習をしても疲れにくくなった、筋肉痛になることも減った、そして練習やレース後の回復力が飛躍的に向上したとジュレク氏は述べています。

Plant-based Dietの心血管系の健康と耐久系スポーツのパフォーマンスへの効果

Plant-based Dietはランナーの回復力を高めるというジュレク氏の主張を裏付ける学術論文が最近発表されました。この論文はさらにPlant-based Dietが肉食中心の食事に比べて炭水化物を多く含むため、長距離ランナーの持久力を高める効果もあるとしています。

Plant-Based Diets for Cardiovascular Safety and Performance in Endurance Sports.
Barnard, N. et al., 2019
https://www.mdpi.com/2072-6643/11/1/130

論文著者らは既存の77個の研究を解析し、Plant-based Dietが耐久系アスリートのパフォーマンスに関わる多くの面で重要な働きをすると述べています。特に心血管系の健康を維持することに大きな効果があるともしています。

論文著者の1人であるジェームス・ルーミス医学博士はランニング雑誌『Runner’s World』の取材に対してこう述べています。

「Plant-based Dietの食品には抗酸化作用をもたらすものが多く含まれていて、そのことが長距離走を行うことによって引き起こされる炎症を抑えるからです。炎症はまた多くの心血管系の病気の原因になりますので、それらの病気を予防することにもつながるのです」

「長距離走や激しいワークアウトを行うと筋肉痛や靱帯や関節にダメージが生じますが、Plant-based Dietの食品に多く含まれる一酸化窒素は、血流を改善し、回復を早めるのに役立ちます」

勿論、他の多くの食事方法と同じく、このPlant-based Dietについても、その効果や安全性にあらゆる角度からの賛否両論があります。ここではこれ以上の詳しい説明や是非を論じることはしません。上で紹介した事例や学説はあくまで1例に過ぎません。ぜひご自分の体とライフスタイルに合った食事方法を探ってみてください。

 

角谷剛(かくたに・ごう)

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