アメリカのスポーツ現場ではプライオメトリクス・トレーニング(Plyometric Training)があらゆる競技やレベルで広く行われています。”Plyometric” と言う単語は造語で、元々はギリシャ語の”Plio”(もっと)と”Metric”(測る)を組み合わせたものです。ソ連時代のロシアで陸上競技選手たちが行っていたトレーニングが1980年代以降アメリカに伝わったとされています。

 

地面から高さのある台の上に跳び上がる(ボックス・ジャンプ)、逆に台の上から地面に跳び下りる(デプス・ジャンプ)、水平方向に両足を揃えてジャンプする(ブロード・ジャンプ)などがプライオメトリクス・トレーニングの代表的なエクササイズです。

 

そもそもプライオメトリクス・トレーニングとは?

 

プライオメトリクス・トレーニングのおもな目的は、瞬発力と爆発的なパワーを高めることです。筋肉にはいったん伸びると縮まるという特性があり、これは「伸張反射」と呼ばれます。普段は無意識に働くものですが、この伸張反射のスピードをプライオメトリクス・トレーニングによって速めることで、より速くて力強いパワーを発揮できるようになるとされています。広義の筋力トレーニングに含まれますが、いわゆるウェイト・トレーニングが重量を用いて筋肥大を図るのに対し、プライオメトリクス・トレーニングでは筋肉のサイズではなく機能を高めるとも言えるでしょう。

 

そのため、本来はスピードやジャンプ力を要求されるタイプの競技に向いたトレーニング方法です。陸上競技で言えば、短距離走、跳躍系、投擲系のアスリートたちということになります。ところが、このプライオメトリクス・トレーニングを長距離走ランナーも取り入れるべきだとする指導者もいて、その効果については賛否両論があります。

 

ここではプライオメトリクス・トレーニングと長距離走の関連について調べた研究論文をいくつか紹介します。

 

研究1:プライオメトリクス・トレーニングの長距離走パフォーマンスへの影響

 

The effect of plyometric training on distance running performance.

Spurrs RW, et. al., 2002

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12627298

 

研究内容:

17人の競技者レベルの長距離ランナーを普段のランニングにプライオメトリクス・トレーニングを加えたグループ(E)と普段通りのランニングしかしないグループ(C)に分け、それぞれ6週間のトレーニングを行ってもらい、期間前後で筋力テスト、VO2Max測定、乳酸閾値測定、3キロ走タイムトライアルなどの結果を比較しました。

 

結果:

プライオメトリクス・トレーニングを行ったグループ(E)は3キロ走タイムトライアルで大きな向上が見られました(2.7%)。ランニングだけを行ったグループ(C)にはタイムトライアルで変化は見られませんでした。VO2Maxと乳酸閾値はどちらのグループも有意な差は生じませんでした。論文研究者はプライオメトリクス・トレーニングがランニング・エコノミーを高めるのではないかと推測しています。

 

研究2:6週間のプライオメトリクス・トレーニングによるランニング・エコノミーの向上

 

Improvement in Running Economy After 6 Weeks of Plyometric Training.

Turner A., et. al., 2003

https://journals.lww.com/nsca-jscr/Abstract/2003/02000/Improvement_in_Running_Economy_After_6_Weeks_of.10.aspx

 

研究内容:

研究1と似た調査をランナーのレベル別に比較した研究です。普段のランニングにプライオメトリクス・トレーニングを加えたグループ(E)と普段通りのランニングしかしないグループ(C)に分け、それぞれ6週間のトレーニングを行ってもらうところまでは同じですが、期間前後でトレッドミルの速度を速、中、遅のレベルごとに比較しました。

 

結果:

プライオメトリクス・トレーニングを行ったグループ(E)はランニングだけを行ったグループ(C)と比較して、どの速度レベルでもランニング・エコノミーに有意な向上が見られました。VO2Maxやジャンプ力などはどちらのグループも有意な差は生じませんでした。論文研究者は6週間のプライオメトリクス・トレーニングはランニング・エコノミーを高めるが、そのメカニズムは不明だとしています。

 

研究3:ウェイト・トレーニングとプライオメトリクス・トレーニングがランニングのエネルギー効率に与える影響

 

Effect of Plyometric vs. Dynamic Weight Training on the Energy Cost of Running.

Berryman N., et. al., 2010

https://journals.lww.com/nsca-jscr/FullText/2010/07000/Effect_of_Plyometric_vs__Dynamic_Weight_Training.17.aspx

 

研究内容:

35人の競技者レベルの長距離ランナーを普段のランニングにプライオメトリクス・トレーニングを加えたグループ(PT)、ウェイト・トレーニングを加えたグループ(DWT)、普段通りのランニングしかしないグループ(C)の3つのグループに分けました。8週間のトレーニング期間中はグループ間で運動の種類は異なるが、運動量と強度は同じレベルに均す工夫がされました。トレーニング効果を評価する項目として、エネルギー効率(一定のスピードと距離を走るのに必要とされるエネルギー量)を比較しました。

 

結果:

プライオメトリクス・トレーニングを行ったグループ(PT)がエネルギー効率にもっとも大きな向上が見られ、ウェイト・トレーニングを行ったグループ(DWT)がそれに続きました。論文著者らは長距離ランナーもプライオメトリクス・トレーニングを行うべきと結論で述べています。

 

 

研究4:短距離インターバル走とプライオメトリクス・トレーニングが長距離ランニングのパフォーマンスに与える影響

 

Effects of intermittent sprint and plyometric training on endurance running performance.

Lum D., et. al., 2019

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31534822

 

研究内容:

14人の長距離ランナーを短距離インターバル走を行うグループ(IT)とプライオメトリクス・トレーニングを行うグループ(PT)に、それぞれ7人づつに分けました。週2回、合計12回のトレーニングを行い、期間前後で瞬間的なパワーを測定するためのジャンプ力と10キロ走のタイムトライアルを行いました。

 

結果:

どちらのグループも期間中の走行距離は普段より短くなったにもかかわらず、ジャンプ力と10キロ走のタイムに有意な向上が見られました。論文著者らは短距離インターバル走もプライオメトリクス・トレーニングも瞬間的なパワーを高め、それが長距離走のパフォーマンスを向上させると結論で述べています。

著者の感想

上のどの研究も長距離ランナーがプライオメトリクス・トレーニングを導入することにプラス評価を与えています。それもすべて調査期間は6~8週間の範囲に収まっており、効果が出るまでにさほどの日数は必要ないようです。

筆者は特に伝統的な短距離インターバル走とプライオメトリクス・トレーニングを比較した研究4に注目しました。人にもよるでしょうが、少なくとも筆者にとって、短距離インターバル走は非常につらい練習です。毎回、心臓が口から飛び出るような思いをしますし、ハムストリングスに肉離れを起こしたこともあります。

その点、プライオメトリクス・トレーニングは一般的にそれほど体力的に追い込むようなことはしません。疲れ果てた状態で行っても効果は薄いし、またケガのリスクも懸念されるからです。種目によってはゲーム的な楽しみもあります。

同じように効果が望めるのなら、筆者は短距離インターバル走よりプライオメトリクス・トレーニングを選択したいと思います。

 

角谷剛(かくたに・ごう)

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