長距離を走り出す前のウォームアップで行うストレッチについて考えてみたいと思います。ストレッチにはウォームアップだけではなく、クールダウン、柔軟性向上、怪我の予防などの様々な目的がありますが、今回はウォームアップについてのみ述べることにします。

ストレッチには大きく分けて、1)同じ姿勢でじっとして筋肉や関節を伸ばす静的ストレッチと、2)動きを伴う動的ストレッチがあります。そのうち、一般的にウォームアップに向いているのは動的ストレッチだとされています。

静的ストレッチにはウォームアップ効果がないことは見た目にも明らかです。よく軽くジョギングをして体を温めてから、ストレッチで脚を伸ばしている人を見かけますが、あれではせっかく温めた体がまた冷えてしまいます。

それだけではなく、運動前に静的ストレッチをすると、かえって筋力パフォーマンスが下がってしまうとする説も有力です。いくつかの研究がその説を支持していますが、その多くは瞬間的なパワーを求められるスプリント系やパワー系のパフォーマンスに関するものでした。今回は長距離走に焦点をあてた研究に着目してみました。

 

研究1:静的ストレッチが長距離走のパフォーマンスとエネルギー効率に与える影響

 

Effects of Static Stretching on Energy Cost and Running Endurance Performance.

Wilson, J. et. al., 2010

https://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2010/09000/Effects_of_Static_Stretching_on_Energy_Cost_and.2.aspx

 

研究内容:

10人の男性長距離ランナーにトレッドミルでの60分間走を行ってもらいました。1回目の実験では事前に16分間の静的ストレッチを行ってもらい、1週間後に行った2回目の実験では16分間ただじっと座ってもらいました。

ランは前半の30分をVO2Maxの65%でジョグをしてもらい、後半30分を可能な限りスピードを上げて走ってもらいました。

結果:

前半30分間のエネルギー消費量は、1回目の静的ストレッチを行った実験では425 kカロリー(上下幅55 k カロリー), 2回目の静的ストレッチを行わなかった実験では405 kカロリー(上下幅53 k カロリー)でした。つまり、静的ストレッチをすると同じ強度のジョグでより多くのエネルギーが必要になりました。

後半30分の平均走行距離は、1回目の静的ストレッチを行った実験では5.8km(上下幅1.1km)、2回目の静的ストレッチを行わなかった実験では6.0km(上下幅1.0km)でした。つまり、静的ストレッチをすると、30分間走のパフォーマンスが落ちました。

さらには柔軟性テストの結果は2回の実験の間で変化がありませんでした。

論文著者らは静的ストレッチには長距離ランナーのエネルギー効率と競技パフォーマンスに悪影響があると結論づけています。

 

研究2:動的ストレッチが長距離ランナーのパフォーマンスに与える影響

 

Acute Effect of Dynamic Stretching on Endurance Running Performance in Well-Trained Male Runners.

Yamaguchi, T. et. al., 2015

https://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2015/11000/Acute_Effect_of_Dynamic_Stretching_on_Endurance.6.aspx

 

研究内容:

7人の男性中・長距離ランナーにトレッドミルで、VO2Maxの90%で走行実験を行ってもらいました。1回目の実験では事前に5分間の動的ストレッチを行ってもらい、2回目の実験ではストレッチを行いませんでした。それぞれの実験で疲労困憊になるまでの時間(TTE)と走行距離(TRD)を測定し、それぞれの結果を比較しました。

 

結果:

疲労困憊になるまでの時間(TTE)は、動的ストレッチを行った実験では平均928.6秒(上下幅215.0秒)、ストレッチを行わなかった実験では平均785.3秒(上下幅206.2秒)でした。つまり、動的ストレッチを行うとより疲れにくくなりました。

走行距離(TRD)は、動的ストレッチを行った実験では平均4,301.2m(上下幅893.8 m)、ストレッチを行わなかった実験では平均3,616.9m(上下幅783.3 m)でした。つまり、動的ストレッチを行うとより長くの距離を走れるようになりました。

尚、VO2の値は2回の実験の間で変化がありませんでした。

論文著者らは動的ストレッチには長距離走のパフォーマンスを向上させる効果はあるが、ランニング・エコノミーには影響がないと結論づけました。

まとめ

上の研究結果を見ると、長距離ランナーのウォームアップに効果があるのは動的ストレッチであって、静的ストレッチにはかえって悪影響があるということになります。筆者自身の実感でもその通りです。長い間の習慣で走る前に静的ストレッチを行っている人は、一度ルーチンを見直してみると良いかもしれません。

ただ、繰り返しになりますが、今回の話はあくまでウォームアップについてのみです。運動後や独立した時間でのストレッチについては別の視点が必要になりますので、ご注意ください。

 

角谷剛(かくたに・ごう)

コメント一覧

コメントはありません

コメントする

コメントを投稿するにはアカウントを作成し、ログインしている必要があります。