アメリカの陸上競技はオリンピック代表選手をすべて1発勝負の選考会で決定します。マラソンも例外ではありません。東京オリンピック(コースは札幌になりましたが)のマラソン米国代表を決めるレースは来る2月29日にジョージア州・アトランタで行われ、上位入賞者男女3名ずつが代表に選ばれます。

ジム・ウォルムズリーとは

この選考レースに出場するランナーの中でひときわ珍しい経歴で注目されているのが、ジム・ウォルムズリー選手です。ウォルムズリーの名前はウルトラマラソンの世界では有名です。世界3大メジャーレースの1つである『Western States 』(161キロ)を2018、2019年に連覇し、2019年5月には『Project Carbon X』では陸連未公認ながらも50マイル(80キロ)の最速タイムを記録しています。これまでに年間最優秀ランナーに4年連続で選ばれているウルトラマラソンの第1人者です。生きる伝説と呼んでも大げさではありません。

フルマラソンは未経験。ハーフマラソンでは出場選手中最下位

しかしながら、42.195キロのマラソンとなると話は別です。なぜならウォルムズリーは1度もこの距離のレースを走ったことがないのです。

今回の米国マラソン五輪代表選考レースでは、フルマラソンでは2時間19分(女子は2時間45分)、ハーフマラソンでは1時間4分(女子は1時間13分)が出場資格タイムでした。ウォルムズリーは2019年1月のヒューストン・「ハーフ」マラソンで27位に入り、1時間4分ちょうどのぎりぎりのタイムで出場資格を得ました。260人の男子有資格者のうち、ハーフマラソンで出場権を得たのは27人。ウォルムズリーのタイムはその中でも最下位です。

日本の伝説ランナー達から学んだ超長距離トレーニング

ウォルムズリーはコーチをつけずに1人でトレーニングを行っていますが、その内容をSTRAVA(サイクリングとランニング愛好者向けのソーシャルネットワークサービス)で公開しています。それによれば、昨年12月には連続で毎週175マイル(280キロ)を走っています。さらに200マイル(320キロ)まで伸ばそうとしたそうです。

ウォルムズリーがスポーツ専門紙『Sports Illustrated』に語ったところによると、この月間走行距離で1000キロを越える超長距離トレーニング方法を、彼は80-90年代に活躍した日本の伝説的なランナーたちの練習記録を読んだことから取り入れたと言っています。彼のアイドルは言わずと知れた瀬古利彦氏、犬伏孝行氏、砂田貴裕氏らだそうです。ときには1週間で300キロ以上を走るだけではなく、周回コースを延々と走ることで精神力を鍛えるなんてことを日本人から学んだとも言っています。

おいおいそれって本当かよ? 今どきの日本人ランナーだってそんなことやらないぞ、と突っ込みたくはなりますが、日本陸連強化委員会のマラソン強化戦略プロジェクトリーダーである瀬古利彦氏が米国代表候補にも影響を与えているのは興味深い現象だと言えるかもしれません。国籍と分野が違うだけではなく、世代も違います。ウォルムズリーは1990年生まれの30歳。瀬古氏が現役で活躍していた頃は生まれてもいませんでした。

マラソンとウルトラマラソンの垣根を取り払えるか

それでもこの短い距離(ウォルムズリーにとっては)での経験が浅い(と言うか、まったくない)ウォルムズリーが代表入りの座を勝ち取る可能性は低いと思われます。しかしウォルムズリー自身は代表選考レースに出場する意義は別のところにもあると言っています。

「私が走ることによって、お互いのリスペクトが生まれると思っています。たくさんのウルトラランナーがマラソンを見て、多くのマラソンランナーがウルトラマラソンに興味を持つ。走る距離は違っても、ランナー同士なのですから、そうあってほしいと思います」

 

仮に米国代表として五輪に出場がかなったとしても(マラソンは8月9日)、ウォルムズリーは南アフリカで行われる『Comrades』(6月14日、90キロ)とフランス、イタリア、スイスのアルプス山岳地帯で行われる『UTMB』(8月24日、170キロ)の両方に出場することも決めています。

 

 

角谷剛(かくたに・ごう)

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