タイトルにある「クロスフィット」というトレーニング・メソッドをご存知でしょうか?1990年代にアメリカで生まれ、2000年代に世界中に広がった比較的新しいトレーニング・メソッドで、重量挙げなどのパワー系、鉄棒や吊り輪を使った体操動作、縄跳びやロウイングなどの有酸素運動など、多種多様な動きを組み合わせることにより、総合的な運動能力の向上を目指すものです。短時間で強度の高い運動を行うことが多いため、よくHIITとセットで語られます。

そのクロスフィットをマラソンやトライアスロンなどの持久力系スポーツに役立てようと考えたのが自身もウルトラランナーでもあったブライアン・マッケンジー氏です。マッケンジー氏が提唱した『CrossFit Endurance』では、長距離ランナーであっても走るのは週2、3回にとどめて、残りの日をクロスフィットのトレーニングをすることを奨めています。走る日も長距離だけでなく、短・中距離のインターバル走を多くします。持久力を高めるためであっても、高い負荷をかけたインターバル系の運動がよりパフォーマンスを上げる効果がある、という考えです。

筆者自身はこの『CrossFit Endurance』に大変感銘を受け、このやり方を取り入れてから2年以内で5Kからフルマラソンまであらゆる距離のレースで自己新記録を更新しましたし、それまで未経験だったウルトラマラソン(100K)も完走することができました。しかもその間、一度も故障しませんでした。

それに関した個人的体験と実験について詳しく書いたブログがありますので、宜しければご一読ください。

参照ブログ:型破りウルトラマラソン攻略法

こうした自分自身の体験から、もし誰かに「クロスフィットを取り入れることはランナーにとってメリットがあるか?」と尋ねられたとしたら、100%の確信をもって「Yes!」と即答します。ところが困ったことに(筆者にとっては)、必ずしもそうではないとする研究論文が最近発表されました。

研究事例:市民ランナーには専門分野に特化したトレーニングか高強度かつ多種多様なトレーニングのどちらが向いているか

Polarized Versus High-Intensity Multimodal Training in Recreational Runners.

Andrew J. Carnes and Sara E. Mahoney, 2019

https://journals.humankinetics.com/view/journals/ijspp/14/1/article-p105.xml

研究内容:

21人の市民ランナーを2つのグループに分け、週5日とトレーニングを3か月間続けてもらい、期間の前後に5Kタイムトライル、体脂肪率、VO2Maxを測定し、それらの変化を比較しました。1つのグループ (POL)はランニングのみに特化したトレーニングを行い、別のグループ (CFE)はクロスフィットとランニングを組み合わせたトレーニングを行いました。

POL(ラン専門):

週のうち2日をジョグ、1日をショート・インターベル走、1日をロング・インターバル走かビルドアップ・ラン、そして1日をロングラン。週間走行距離は48~64キロ。

CFE(クロスフィット):

週のうち2日を高強度のラン、2日をクロスフィット、そして1日をその両方。ランの週間走行距離は16~23キロ。

大雑把に言えば、どちらのグループも1日約1時間のトレーニングを週5回、それを3か月間続けました。

結果:

3か月後のトレーニング期間終了時における再検査では、どちらのグループも同じように5Kタイムトライアルの結果が平均して1.5分、5.5%~6.2%の向上が見られました。また体脂肪率も両方のグループとも平均して2.5%ほど低くなりました。

唯一、効果に違いがあったのがVO2Maxです。POL(ラン専門)グループはこの値が8%向上し、一方のCFE(クロスフィット)グループは3%の向上率に留まりました。

著者の考察

何もクロスフィットを交えなくても、週5日のランニングを3か月間続けたら、5キロ走のタイムは同じように速くなる。体だって同じくらい絞れてくる。心肺能力の目安になるVO2Maxに至っては、クロスフィットなんかやるより、ただ走っているだけの方が向上効果は高い。

これがこの研究から導かれた結論です。クロスフィット・トレーナーである筆者にとっては大変に都合が悪い結論であるのは言うまでもありませんが、実験データを素直に見るとこうなります。

唯一の救いは「クロスフィットとランニングを組み合わせても、少なくともランナーとしてのパフォーマンスに悪影響を及ぼすと断定するだけの根拠はない」ということでしょうか。

なぜなら、ただ毎日走るだけのトレーニングは退屈だ、と感じる人がいることは紛れもない事実だからです。そう言い切れるのは、筆者自身がその1人だからです。走る時間と距離を半分にして、残り半分で楽しくクロスフィットをやって、それで同じくらいランのタイムが速くなるなら、それで十分ではないだろうか、とやや開き直った感想をここで述べておきます。

ただ、クロスフィットではVO2Maxがあまり向上しないというデータを直視するなら、市民ランナーレベルよりさらに上を目指すランナーは、やはり走る込むことをトレーニングの中心に据えるべきだと言えるようです。

 

角谷剛(かくたに・ごう)

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