ランナーが怪我をしてしまったとき、プールでの水泳は魅力的なリハビリの選択肢です。故障した箇所に負担をかけずに、かつ心肺能力を維持するための有酸素運動を行うことができるからです。

特に怪我をしていなくても、寒い冬や雨が降っているなどの理由で外を走ることができないとき(あるいは走りたくないとき)、あえて室内プールでのトレーニングを選ぶ人もいるでしょう。

他にも、走る動作で鍛えられるものとは別の筋肉を鍛える、精神的な飽きを回避する、など一般的なクロストレーニングの利点も挙げられます。

このように、水泳にはリハビリやトレーニング代替案としてのメリットがあることには疑いの余地がありませんが、今回はランナーが競技力を高める上で「あえて」水泳をトレーニングに取り入れるべきかについて調べてみました。

意外に低い水泳の心肺能力への効果

数ある有酸素運動のうち、心肺能力の向上にもっとも効果があるエクササイズは何か? この疑問には既に多くの研究が行われています。その中でも、もはや古典として機能している代表的な論文が今から約60年前となる1961年に発表されています

Maximal oxygen uptake and heart rate in various types of muscular activity.

Åstrand P, et. al 1961

https://journals.physiology.org/doi/abs/10.1152/jappl.1961.16.6.977

この研究では7人のアスリートに種類の異なる有酸素運動(サイクリング、水泳、ランニング、スキー、アームクランキング)を行ってもらい、最大酸素摂取量の変化を比較しました。

すると脚の筋肉を多く使う運動ほど、心肺能力への刺激が大きくなることがわかりました。

心肺能力への効果は腕だけを使うアームクランキングがもっとも低く、全身の筋肉を使う水泳も、ランニングやサイクリングなどと比較すると15%ほど低くなるということです。

ラン+水泳のクロストレーニングかランのみの専門トレーニングか

クロストレーニングの効果を証明するために、ランと水泳を組み合わせたトレーニングをするグループとランのみの専門トレーニングをするグループのトレーニング効果を比較したのが下の研究です。

Effects of specific versus cross-training on running performance.

Foster C., et. al 19959

https://www.researchgate.net/publication/15550305_Effects_of_specific_versus_cross-training_on_running_performance

30人の訓練されたアスリート(男性10人、女性20人)が研究対象になりました。8週間のトレーニング期間中、ランと水泳を行うグループ(XT)とランのみを行うグループ(R)に分けたところ、どちらのグループも3.2キロのタイムトライアルの結果は向上したものの、VO2Maxなどの心肺能力を示す指標には有意な差が生じませんでした。

論文著者らは、水泳のようにランとは異なる筋肉をつかうクロストレーニングにはランニングパフォーマンスへ良い影響があるかもしれないが、その効果はランのみの専門的トレーニングを増やしたときには及ばないとしています。

運動強度指数(METS)では

鍛え上げられたアスリートではなく、市民ランナーレベルではどうなのでしょうか? あらゆる運動の強度を示すMET (Metabolic Equivalent)という指標があります。安静時を1.0として、運動の種類によってその何倍に相当するかを表す単位です。

独立行政法人 国立健康・栄養研究所 2012年「改訂版 身体活動のメッツ(METs)表」によれば、キロ6分ペースぐらいでジョギングしたときとクロールで速く泳いだとき(25メートルを22.5秒)がどちらも約10 METsでほぼ同じになるとしています。もっとゆっくり泳いだときのMETsは散歩をしたときと大差ありません。

つまり、水泳という動作はランニングに比べると、時間あたりの運動強度がかなり低いということになります。

筆者の考察

筆者にとっては意外な結果でした。筆者もプールに行って25メートルを何回か往復することが時々ありますが、いつも呼吸が大変苦しくなりますし、プールから上がると全身の筋肉が疲労する感覚があります。そして、心肺能力も筋力も水泳によって大いに鍛えられていると思っていました。実感としては30分の水泳は1時間のランよりはるかに苦しいのですが、上の研究によるとそうではないようです。

想像するに、筆者が水泳という動作や息継ぎに不慣れなため、体に余分な力が入り、必要以上に疲れてしまっているのでしょう。主観的なきつさとトレーニング効果はどうやら比例するわけではないようです。

 

角谷剛(かくたに・ごう)

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