マラソンランナー、ウルトラランナー、トライアスリート、それ以外の耐久系アスリートの皆さんにお知らせです。米スタンフォード大学研究チームが最近発表した論文によりますと、電解質補給の効果を謳ったスポーツドリンクやサプリメントにはレース中やその後に体内のナトリウム・バランスを保ち、電解質代謝異常症を予防する効果はありません

 

この問題の論文は臨床スポーツ医学ジャーナル(The Clinical Journal of Sports Medicine)の2020年2月号に発表されました。

 

Effect of Sodium Supplements and Climate on Dysnatremia During Ultramarathon Running.

Lipman, G. et al., 2020

https://journals.lww.com/cjsportsmed/Abstract/publishahead/Effect_of_Sodium_Supplements_and_Climate_on.98973.aspx

 

研究の対象は高ナトリウム血症(hypernatremia)と運動関連性低ナトリウム血症(exercise-associated hyponatremia, EAH)でした。高ナトリウム血症(hypernatremia)は何らかの理由で血中のナトリウム濃度が高くなり過ぎることと脱水症状によって引き起こされる症状で、運動関連性低ナトリウム血症(EAH)はそれとは逆にナトリウム濃度の低下によって引き起こされる症状です。

研究によればこれらの症状に罹る確率は気温の上昇によって高まり、電解質サプリメントにはEAHを予防する効果が認められませんでした。

 

実際の耐久レース出場者からデータを採集

リップマン医学博士ら研究チームはRacingThePlanetが2017年と2018年にチリ、パタゴニア、ナミビア、モンゴルの砂漠で開催したウルトラマラソンレースに参加した266人のアスリートを調査しました。これらのレースは250キロ以上の悪路を7日間かけて走破する過酷なものです。リップマン医学博士らはこの発見は他のスポーツ(ラグビーやサッカーなど)にも適用できるとしています。

データ採集はレース5日目に行われました。その日の走行距離は約80キロ、レース中の平均気温は摂氏33度を越えました。

英語を理解するレース参加者全員に研究参加が呼びかけられ、そのうちの266人が承諾しました。被験者らの平均年齢は43歳、61人が女性、205人が男性、平均体重は74キロ、平均ゴールタイムは14時間半でした。

被験者らはスタート前にトレーニング歴、電解質サプリメントの種類と摂取タイミングを報告し、ゴール直後の体重と血中ナトリウム濃度の変化が測定されました。あるグループは1時間ごとに電解質タブレットを摂取し、またあるグループは水に電解質を溶かしたボトルを持つなど、レース中の補給はそれぞれの作戦に任されました。

 

結果

被験者の6.3%にあたる11人が運動関連性低ナトリウム血症(EAH)を起こし、17.2%にあたる30人が高ナトリウム血症(hypernatremia)を起こしました。

論文著者らの結論は、気温と体内の水分状態が血中ナトリウム濃度を決定する重要な要因であり、電解質サプリメントの種類や摂取タイミングはあまり関係ないということです。

 

論文著者らの提案

以下はリップマン医学博士の発言です。

 

「過去において、アスリートたちはできるだけ多くの電解質サプリメントと水分を摂取するように言われてきました。それが筋肉のけいれんやめまいなどの症状を予防することに繋がると考えられてきたからです。しかしながら、それが正しいと証明する根拠はありません」

 

「とくに電解質サプリメントは低ナトリウム濃度によるけいれんやめまいを予防すると宣伝されてきました。しかしそれは誤りでした。電解質サプリメントにはこれらの症状を予防する、あるいは競技パフォーマンスを向上させる、と示す科学的根拠はありません。逆に過度の水分と一緒に摂取することで、かえって危険でもあります」

 

「のどが乾いたら、迷わず水を飲むことです。時間や距離で摂取スケジュールを組むことは無意味です」

 

筆者の考察

EAHの症状があったアスリートはそうでないアスリートに比べて、平均して体重が14キロ重く、トレーニングで積んだ距離が著しく短く、そしてゴール時間も5~6時間遅くなっていたこともわかっています。

まことに身も蓋もない結論ですが、要するにレース中にけいれんやめまいを起こしたくなかったら、電解質サプリメントは頼りにならない。それよりも気温の高いレースを避けるか、あるいはそれに耐えうるだけのトレーニングを積み、体を絞れということらしいです。

けいれんとナトリウム濃度の関係については別の角度から調べたことがあります。こちらもぜひご覧ください。

過去記事:ランニング中に起きる突然のけいれんの原因と予防方法

 

角谷剛(かくたに・ごう)

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