マラソンに限らず、長距離走レースは他にあまり例をみない特性をもったスポーツです。それは例えレベルが天地ほどかけ離れていても、ランナー全員が同じコースを走ることです。スタートの時間こそ分けられても、時間制限内での完走に挑む初心者ランナーも、オリンピックを目指すようなエリートランナーも、同じ日に同じコースを走ります。

2020年の東京マラソンは市民ランナーの参加が取り止めになり、エリートランナーのみで行われました。これが最初で最後の例になることを祈っています。

さて、それでは市民ランナーと競技ランナーの違いとは一体何でしょうか? 持ちタイム、スポンサーの有無、過去の実績など、様々な要素が考えられるでしょう。私は自分なりに1つの定義を持っています。痩せるために走るのは市民ランナー、速く走るために痩せるのは競技ランナーです。

長距離走というのは体重が軽ければ有利なスポーツであることは容易に想像がつきます。走るという行為は、2本の足を使って長い距離を移動することですので、ゴールまで運ぶべき体重が軽くなれば、それだけ必要とされる仕事量も小さくなるはずですから。

体重が増えると走るスピードはどれだけ遅くなるか - 古典的研究

それでは、ランナーの体重が増えると、具体的にどれだけの悪影響が生じるのか。それを科学的に証明することは、実は容易ではありません。真剣に競技を行っているランナーに「あなた、これだけ太ってください」と実験に協力してもらうわけにはいかないからです。その難問にあえて挑んだのが下の研究です。

 

Effect of experimental alterations in excess weight on aerobic capacity and distance running performance.

Cureton KJ. et al., 1978

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/723510

 

ジョージア大学の研究者たちが1978年に発表した、もはや古典とも呼べるこの研究では、ランナーの腰と肩にハーネスをとりつけ、それぞれの体重の5,10,15%の重量を加えて、12分間走のタイムを比較しました。

すると、重量負荷のない状態で平均3230メートルだった12分間走の走行距離が、負荷を5%増やすごとに平均89メートル(約2.75%)減ったことがわかりました。

これでは少しわかりにくいので、例として私のケースに換算してみます。私の体重は60キロ、5キロ走の持ちタイムは約20分です。

体重60キロの5%だと3キロです。20分の2.75%は33秒。つまり、私が3キロ太ると、5キロ走のタイムは33秒遅くなるということになります。

33秒ぐらいだったらそれほど大したことはないなと思うのは私が素人だからで、競技ランナーにとっては2.75%のタイムの違いは勝負を大きく左右するであろうことは言うまでもありません。

体重が減ると走るスピードはどれだけ速くなるか - 最新研究

逆のアプローチで、ランナーの体重を減らしたらどうなるかを調査したのが下の研究です。

 

The Effect Of Acute Body Mass Reduction On Metabolism And Endurance Running Performance.

Zacharogiannis E. et al., 2017

https://www.abstractsonline.com/pp8/#!/4196/presentation/10828

 

実際に体重を削るわけにはいきませんので、この研究はトレッドミルを走るランナーを上からロープで吊り上げて、ランナーの計算上の質量を5%及び10%減らす方法が取られました。

こうして11人のランナーに3000メートル走を行ってもらったところ、質量5%減ではタイムが3.1%速くなり、質量10%減では5.2%速くなりました。

これも私のケースに当てはめますと、私が3キロ痩せると、5キロ走のタイムが37.2秒速くなるということになります。

筆者の考察

体重が増えると走るのは遅くなる。体重が減ると走るのは速くなる。当たり前すぎるほどの結論ですが、上の2つの研究はそれを証明しました。この明白な結果に疑いの余地はありません。

しかし、これらの研究は、増減する体重以外にランナーの脚力と心肺能力が同じであると仮定した、いわば現実には起こり得ない理論上での話です。

私の実感では、3キロ痩せるぐらい走りこんだら、タイムはもっと速くなりますし、逆に3キロ太るほど不摂生をしたら、遅くなるのは数%では済みません。

競技ランナーたちが体重を減らそうとすることは無理もありませんが、それには危険もつきまといます。急激に体重を減らすと貧血や脱水症など様々な健康上のリスクが生じるからです。それなのに競技ランナーの中には無理な減量を試みて、かえってコンディションを崩してしまう人が後を絶ちません。それだけならまだしも、拒食症になってしまうような極端なケースもあるようです。そうなると競技どころか、日常生活にも支障をきたしていまいます。

体重を減らすことに関しては、指導者にはランナーの健康と安全を守る義務が、ランナー自身には正しい知識と自覚が求められます。

角谷剛(かくたに・ごう)

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