このサイトに集まるランナーなら、最大酸素摂取量(以下VO2max)って何?という人は多分いないとは思いますが、一応話を進める順序として簡単に説明させてください。

VO2maxは体重1kgあたり1分間に取り込むことのできる最大の酸素量です。ml/kg/minという単位が用いられます。

人間の体は酸素を使って体内に貯えられたエネルギーを分解し、筋肉に送ります。より多くの酸素を取り込めるということは、より多くのエネルギーを活用できるということです。従ってVO2maxが高ければ高いほど長時間の運動に適しているというわけで、基本的には長距離系のアスリートは高いVO2maxの持ち主です。

VO2maxはその人の体質や素質の要素が大きいのですが、トレーニングによって向上させることも可能です。性別や年齢によって異なりますが、大雑把に分類すれば、普通の人で40~50 ml/kg/min、ちょっとしたスポーツマンなら50~60 ml/kg/min、競技者レベルのランナーなら70 ml/kg/minを越える人も珍しくありません。

最大のVO2maxは必ずしも最高のパフォーマンスには繋がらない

市民ランナーのレベルでは、VO2maxが大きくなれば、それと比例するようにタイムも速くなっていきます。ところが、競技者レベルになると必ずしもそうとは限らない、とする説があります。

そのVO2maxと競技パフォーマンスの関係について、興味深い研究があります。

Physiological adaptation of aerobic efficiency: when less is more.

  1. Flockhart and F. J. Larsen, 2019

https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.00649.2019

 

アルペンスキーから競技サイクリングに転向し、記録的なVO2maxの値を出したOskar Svendsen選手(ノルウェー)について調べたものです。アルペンスキー選手時代からSvendsen選手のVO2max は70 ml/kg/min以上と競技者レベルのランナー並みでしたが、サイクリングに転向してから僅か3年のトレーニングの結果、97.5 ml/kg/minというかつて記録されたことがない数値まで向上しました。しかしながら、Svendsen選手は18歳でジュニア世界王者にはなりましたが、その後の競技成績はぱっとせず、21歳で現役を引退しました。その後数か月でVO2max は元の70 ml/kg/min代に戻ったそうです。

このSvendsen選手の事例を様々な角度から研究した論文著者らは、Svendsen選手のエネルギー効率が低いことに注目しました。類まれなVO2maxにより大きなエネルギーを獲得すると同時に、そのエネルギーを推進力パワーに転換する能力(ここではサイクリングのスピード)が他の選手に比べて著しく低かったということです。

論文著者らは人の筋肉細胞がエネルギーを最大化する能力とそれを効率よく行う能力は常に相反する、トレード・オフの関係にあると述べています。細胞が筋肉を動かずために必要なATPを生成するためのエネルギー源には無酸素性と有酸素性がありますが、無酸素性エネルギーの方が先に使われ、また枯渇するのが早いため、体内では主なエネルギー源が有酸素性エネルギーに切り替わるタイミングがあります。どうやら、VO2maxが非常に高くなると、それと同時にその切り替えタイミングも早くなり、必要以上に多くの有酸素性エネルギーを消費してしまうようなのです。

これを車に例えますと、エンジンのパワーが大きくなっても、燃費が悪くなるようなものだと言えるかもしれません。ランニングに置き換えますと、ランニングパフォーマンスの指標の1つであるVO2max が高くなるにつれて、もう1つの指標であるランニングエコノミーが低くなるということです。

 

筆者の考察

ただし、ランニングエコノミーとは上のような生理学的な要因だけではなく、その人のランニングフォームによって良くも悪くもなります。一般的にはむしろ走り方の良し悪しのことを指すことが多いようです。従って、VO2maxを高めすぎると、ランニングエコノミーが悪くなるよ、とは単純には結論づけることはできません。

VO2maxを向上させるためのトレーニングとしては伝統的にはインターバル走、最近ではHIITなどが広く行われていますが、これらは筋力などVO2max以外の能力も高めてくれます。それにたとえ多少消費する効率が悪くなっても、用いることができるエネルギー量が多くなれば、やはり長時間の運動には有利に働くでしょう。

考察と呼ぶよりはあくまで個人的な印象かもしれませんが、筆者は市民ランナーレベルであればVO2maxの数値が上がることの弊害はあまり考えなくてもいいと思います。競技者レベルになれば、VO2maxの数値「のみ」を指標にしてトレーニング方法を決定しないほうがいいだろう、とも思います。

 

 

角谷剛(かくたに・ごう)

コメント一覧

全1件のコメント

  1. 2020年4月19日 21:07

    […] ではありません。例えば、VO2max の数値が上がっても、競技パフォーマンスが必ず上がるとは限りません(参照記事:最大酸素摂取量(VO2max)とランニングパフォーマンスの関係について)。 […]

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