昔々、筆者が空手を習い始めた頃、師匠にあたる人はまるでブルース・リーのような引き締まった筋肉質の身体を持っていましたが、その人に言われた言葉を、今でもよく覚えています。

「食べるのも、寝るのも、稽古のうちやで」

師匠が言いたかったのは、トレーニングで効果を出すには、筋肉を追い込んで鍛えるだけでは不十分で、きちんとした栄養と休息は欠かすことができないのだ、ということだと思います。まさにトレーニングの本質を捉えた名言だと言えるでしょう。

筆者が次に学ぶことになったクロスフィットでは、フィットネスと健康の関連を定義した有名な「クロスフィット・ピラミッド」という図があります。そこではすべての基本となる部分は「栄養」とされ、その上に代謝、機能、パワー、スポーツが続きます。

このように「筋トレ」と「栄養」は切っても切れない関係にあります。今月の通しテーマはこの「栄養とサプリメント」です。

1回目の今回はたんぱく質とプロテイン・サプリメントを取りあげます。

たんぱく質とプロテインは同じもの

食事に含まれる栄養素のことを語るときには「たんぱく質」と呼び、なぜかサプリメントのことを語るときは「プロテイン」と呼ぶことが多いのですが、本来この両者は同じものを指しています。

たんぱく質とは体の主成分の1つで、非常にさまざまな働きをする必須栄養素なのですが、筋トレを行う人にとっては、主に「筋肉を作るための材料」として捉えられることが多いでしょう。

「筋トレ101 その8:超回復と分割法」で詳しく説明しましたように、筋トレは筋繊維を傷つけ、休息によって回復するサイクルを繰り返します。その回復の際に傷ついた筋繊維を太く、強く成長させるために欠かせない主要な栄養素がたんぱく質なのです。

そのために、ボディビルダーなど筋トレに熱心な人はたんぱく質が多く含まれる肉や卵を大量に食べますし、それだけでは足りないとばかりに食事の間にはプロテイン・パウダーなどのサプリメントも摂るわけです。

あのロッキー・バルボアが生卵を何個も丸のみしていたのは、たんぱく質を大量に摂取するためであって、けっして罰ゲームとか景気づけのためではありません。

1日にどれだけの量が必要か

それではどれだけたんぱく質を摂るべきなのか? についてはよく「普通の人が健康に過ごすためには1日に体重1kgあたり1~1.5g、筋トレで筋肉量を増やすためには体重1kgあたり2g」が目安とされています。

この数字はあくまで定説であって、100%正しいかどうかは分かりませんが、一応はこれを前提に話を進めます。

私の体重は約60㎏なので、筋肉を増やすためには毎日120gのたんぱく質が必要だということになります。1日に3回食事を摂るとしたら、1回につき40㎏のたんぱく質ということになりますが、これはなかなか大変です。

牛丼チェーン『吉野家』の公式サイトにある栄養成分表によりますと、牛丼に含まれるたんぱく質の量は並盛が20.2g, 大盛が25.8g、特盛が34.8g、超特盛で42.3gです。

体重60㎏とは日本人でも小柄な部類に入りますが、その私でも筋肉を増やすためのたんぱく質を食事だけで摂ろうと思ったら、牛丼超特盛を朝、昼、晩の3回必ず食べるのと同じだけの量が必要になるというわけです。困難と言いますか、ほとんど不可能に近いと言ってよいかと思います。

ましてや、私より体重が重い人はさらに多くのたんぱく質が必要になります。卵1個にはたんぱく質が6g含まれていますので、牛丼超特盛の横に生卵を何個かつけるところを想像してみてください。

たんぱく質を摂る頻度とタイミングも重要

上に挙げたのは1日に必要なたんぱく質の総量ですが、もちろんそれを1回にまとめて摂るわけではありません。体格や体質によって異なりますが、人が1回あたりの食事で吸収できるたんぱく質は30~40g程度だと言われています。それ以上の量のたんぱく質を摂っても、それは筋肉作りには使われず、脂肪として貯蔵されてしまうというわけです。

つまり、牛丼超特盛(たんぱく質42.3g)に卵(たんぱく質6g)を追加しても、その分は脂肪になってしまうだけだということです。

そのため、1回に食べる量を増やすのではなく、サプリメント(補助)としてプロテイン・パウダーやプロテイン・バーを間食にして、小分けにたんぱく質を摂取することが一般的に奨励されるわけなのです。

さらには、運動後3045分以内がもっとも筋肉を形成しやすい時間だと言われています。従って、運動の直後、体内に十分なたんぱく質を補給するのが一番望ましいのですが、普通の食事をその時間内に用意して食べるのは、相撲部屋やプロレス道場のように「ちゃんこ番」でもいない限りは難しいでしょう。

よくジムで筋トレが終わったあと、シャワーも浴びずに、プロテイン・パウダーを混ぜたシェイカーを一気飲みしているマッチョマンを見かけることがありますが、あれは筋肉を酷使した直後の「体作りのゴールデンタイム」を逃したくないからなのです。

たんぱく質の種類について

ところで、たんぱく質には肉、魚、卵、牛乳などに含まれる動物性たんぱく質と、大豆などに含まれる植物性たんぱく質があります。

かつては筋トレを行う人は動物性たんぱく質を多く摂るべきだとされてきました。

運動栄養学の説明で以下のような文章を目にしたことがある人は多いと思います。

「動物性たんぱく質は9種類の必須アミノ酸を含んでいるが、植物性たんぱく質には不足しているものがある。体内の吸収率も動物性たんぱく質の方が植物性たんぱく質よりはるかに高い。したがって、筋肉を発達させるには動物性たんぱく質の方が優れている」

そして動物性たんぱく質のなかでも牛乳やヨーグルトに多く含まれる「ホエイたんぱく質」は、もっとも筋肉の合成に良いとされ、サプリメントでも人気がありました。

しかし、最近はこの定説が覆されそうになっています。

動物性たんぱく質をまったく摂らずに、植物性たんぱく質だけでも、筋肉を発達させることができる。むしろ持久力アップなどのメリットも大きいという説が市民権を得つつあるのです

きっかけは2018年に公開されたドキュメンタリー映画『The Game Changers』(邦題:ゲームチェンジャー スポーツ栄養学の真実 https://www.netflix.com/jp/title/81157840 )

この映画の中で、ストロングマン競技の世界記録保持者パトリック・バブーミアン選手が言った言葉は大きな反響を呼びました。

「“どうしたら君は肉を食べずにそんな牡牛のように強くなれるの?”って尋ねられたことがあるよ。そのときに、“君は牡牛が肉を食べるところを見たことがあるかい?”って答えたさ」(パトリック・バブーミアン)

それ以来、米国のサプリメント市場では「Plant-based」(植物由来)と銘打ったプロテイン製品を多く見かけるようになりました。

常識を疑え

このように、栄養学ではかつての定説が大きく変わることがあります。専門家の言うことでも、教科書に書いてあることでも、100%の事実だとは限りません。

ましてや筆者はスポーツ栄養学について一通り学びはしましたが、あくまで専門外です。上に書いたことがすべて事実だと言い切ることはとてもできません。

どうかそのまま鵜呑みにはせず、参考程度に留めておいてほしいと思います。

 

角谷剛(かくたに ごう)

コメント一覧

全1件のコメント

  1. 2020年9月17日 15:31

    […] つまり、筋肥大のためのたんぱく質(プロテイン)、瞬発力アップのためのクレアチン、筋肉疲労からの回復を助けるためのアミノ酸系サプリメントでした。 […]

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