ランニングに関する話題の中から科学的根拠に基づいた学術論文の内容を紹介するシリーズ。今回のテーマは「アルコール」です。

科学的と言うからには主観や先入観を排し、公正かつ客観的な視線でデータを観測、あるいは分析することを求められます。その意味合いにおいて、今回のテーマは私にとって非常な難物でした。興味がないわけではありません。むしろその逆です。

なぜなら私はお酒を愛し、美味しくお酒を呑むために走っているようなランナーなのです。仮にですが、ランナーにとってアルコールは百害あって一利なしであると科学的に証明する理論があったとしても、私がそのためにお酒を止めることは金輪際ないでしょうし、出来ればそんな理論はこの世界に存在しないものとして無視したいと思ってもいるのです。

そのようなわけで、気が重いながらも、「アルコール」と「ランニング」をキーワードにいくつかの学術論文サイトを調べてみました。思った通り、「都合の悪い真実」が次から次と出てきました。

マイナス面1:運動前のアルコール摂取はパフォーマンスを低下させる

https://www.researchgate.net/publication/276270271_Alcohol_and_athletic_performance

カナダ・マギル大学のコジリス博士が発表した上の論文はアルコールはごく少量でもバランス、反応時間、瞬発力、心肺能力など、多岐に渡る運動能力を低下させるとしいています。ランニングに関しては800mと1500m走のランナーが調査対象でした。

酔っぱらった状態でレースを走るランナーは滅多にいないでしょうが、この論文で気にかかる点は、良いパフォーマンスを出すには、運動開始の48時間前からアルコールを避けるべきだとしていることです。つまりレースの2日前からお酒は呑むべきではないということです。

マイナス面2:運動後のアルコール摂取は回復を遅らせる

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19230764

ニュージーランド・マッシー大学のバーンズ博士らが発表した上の論文では、筋トレを行った直後のアスリートを2つのグループに分け、1つのグループにはオレンジジュースのみ、もう1つのグループにはウォッカのオレンジジュース割りを摂取させ、筋肉の回復状態を比較しました。すると後者のグループ、つまりトレーニング後にアルコールを摂取したグループは、前者に比べて著しく筋力の回復が遅れることがわかりました。バーンズ博士らはこのことから運動後の回復期間にアルコールは摂取するべきではないとしています。

つまり、マラソンをゴールした直後にビールを飲むのは避けた方がいいし、その日のうちにお疲れ様の飲み会をするのもダメということになります。

マイナス面3:アルコール摂取は脱水状態を作り出す

アルコールには利尿作用があることはよく知られています。その結果、体から水分が失われるだけはなく、塩分や栄養素も尿として排出され、ミネラルバランスも崩れてしまいます。そのため、運動前にアルコール摂取を控えるべきなのは理解しやすいのですが、どうやら運動後にも悪影響があるようです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9338423

イギリス・アバーディーン医科大学のシレフ博士らが発表したこの論文では、運動後であっても、アルコール摂取は利尿作用から脱水状態を起こして、筋力回復を遅らせる結果になると警告しています。

マイナス面4:アルコールがもたらす健康面での悪影響

ランナーやアスリートに限った話ではありませんが、一般的にはアルコールの摂取は様々な健康上の害をもたらします。アルコールは睡眠の質を悪化させますし(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23347102)、さらにはカロリーオーバーの原因にもなります(アルコール1gには7キロカロリーが含まれる)。

アルコールのメリットとは

それではアルコールに良い面は全くないのかと探してみますと、残念ながら学術論文にはそれらしきものは見つかりませんでした。代わりにスポーツ関連サイトやランニング専門サイトなどに、ランナーあるいはアスリートとの関係で何かしらプラス面があるのではないかと論じている記事は多数見つけることが出来ました。それだけ、ランナーやアスリートとっては、アルコールは興味のあるテーマのようです。

そのうちの1つ、イギリスの大手新聞であるガーディアン(The Guardian)オンライン版に掲載された「アルコールがアスレチック・パフォーマンスに与える影響」という題の記事によりますと、適量のビールや赤ワインなどのある種のアルコール飲料には血圧を下げたり、抗酸化作用をもたらすなどといった健康上のメリットがあると指摘しています。しかしながら、その健康効果はブロッコリーなどの健康的な野菜や果物からも得られるもので、アルコール摂取の言い訳にはならないと結んでいます。

https://www.theguardian.com/lifeandstyle/the-running-blog/2014/apr/23/how-does-alcohol-affect-athletic-performance

まとめ

こうしてあらためて調べるまでもなかったかもしれませんが、一般論としてはやはりランナーはお酒を呑まない方が良いと結論づけることになりそうです。勿論、リラックス効果やモチベーションなどの数字に表れない部分は論文の対象にはなりづらいですし、アルコールの強い弱い、呑む量は人によって様々です。従って、アルコールがある個人に及ぼす影響もまた一概に論じることは出来ません。アルコールとどのように付き合っていくかはランナー個人個人の責任を持って判断するべきでしょう、と逃げを打っておきます。

 

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

 

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