トレーニング後に疲れやすくなった、パフォーマンスが低下した、などの症状が見られたら、それは貧血になっているかもしれません。スポーツ選手の身に起こる「スポーツ性貧血」について、その対処法を紹介します。

マラソン時になるスポーツ性貧血とは

スポーツの中でも持久力が求められるマラソンは、スポーツ性貧血に陥りやすい競技の一つです。

貧血の定義

赤血球中のヘモグロビンは、酸素を全身に運ぶ重要な役割があります。貧血とは血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態のことであり、男性で13.7g/dL以下、女性で11.6g/dL以下というのが一つの基準です。

臨床的にはヘモグロビン濃度が10.0g/dL以下で治療が必要となりますが、その他の検査値や既往歴なども含めて総合的に診断されます。特に女性は生理などの影響で貧血になりやすく、注意が必要です。

貧血の症状

貧血は初期の自覚症状に乏しいため気づくことが難しいケースもありますが、症状としてはトレーニング後に疲れやすくなった、動悸や立ちくらみがする、などが挙げられます。一般の方であれば少し体調が優れないという程度の症状でも、アスリートとなると記録やパフォーマンスに大きく影響する場合があるため貧血対策は重要です。

なぜマラソン時に貧血になるのか

貧血にはいくつかの種類がありますが、アスリートがなる貧血の多くは「鉄欠乏性貧血」です。鉄は酸素を運搬するヘモグロビンの合成に必要な栄養素であり、鉄が不足すると全身が酸欠状態に陥ります。マラソンで鉄欠乏性貧血になる要因としては、汗といっしょに鉄分が流出すること、着地時の衝撃による赤血球の破壊などが挙げられます。トレーニング中の鉄の低下は避けられないので、積極的に鉄を摂取する必要があります。

なお、体内に取り込まれた鉄はすべてがヘモグロビンの合成に使われているわけではなく、その40%は「貯蔵鉄」として保管されています。鉄欠乏性貧血では貯蔵鉄も低下するため、鉄の貯蔵能を表すフェリチンもチェックされます。

マラソンでどの程度ヘモグロビン濃度は変わるのか

マラソンでどの程度ヘモグロビン濃度が変わるのかを検証した研究を紹介します。100kmマラソンに出場した男性25名を対象にした研究では、ヘモグロビン濃度の平均値はレース前で14.3g/dL、レース直後で14.7g/dLと軽度上昇しますが、レース24時間後では13.6g/dLに低下しています。

この変化について論文上では明確な議論はなされていませんが、レース直後は体内の貯蔵鉄が低下した鉄を補いヘモグロビンが合成されるものの、レース後24時間が経過するとヘモグロビンの合成が追いつかなくなり、ヘモグロビン濃度が低下したとも考えられます。またレース後であれば十分に休養を取りますが、普段のトレーニングを重ねていると鉄が流出して、ヘモグロビンの合成が追いつかない可能性もあるでしょう。

Early changes of the anemia phenomenon in male 100-km ultramathoners

スポーツ性貧血の予防策

スポーツ貧血を予防するためには、どのような対策がいるのでしょうか。

定期的な検査

貧血の基準値は先述の通りですが、正常な状態でのヘモグロビン濃度は個人差があるので、定期的に検査を行い普段のヘモグロビン濃度を知っておくことが大切です。そのほか鉄の貯蔵能を表すフェリチン、赤血球の大きさを表すMCV、鉄を運搬するタンパク質であるUIBCなど、さまざまな検査項目があります。必要に応じて確認しておくとよいでしょう。

食生活

鉄を多く含む食品には以下のようなものがあります。

・豚や鶏のレバー

・鶏卵

・あさりやしじみ

・ひじき

・切り干し大根

・ほうれん草

・小松菜

普段から鉄を多く含む食品の摂取を心がけるほか、吸収をアップさせるビタミンCも摂取すると効率的です。またヘモグロビンの合成にはタンパク質も欠かせません。

サプリメントの活用

鉄は普段の食事から摂取できますが、吸収されにくい栄養素であるため、食事摂取基準では1日あたり約10.5gの摂取が必要です。この量は豚レバーであれば約80g、ほうれん草であれば1/4束に相当します。また体質的に鉄分が多く流出しやすい方もいます。食事だけで鉄分を補うことが難しい場合は、サプリメントを活用しましょう。

鉄のサプリメント摂取による貧血予防の効果に関する論文を紹介します。日常的にトレーニングをしている成人男女94名を二つのグループに分け、一つのグループには1日30mgの鉄のサプリメントを、別のグループには鉄を含有していない偽薬をそれぞれ6週間継続服用させました。この試験法は二重盲目試験と呼ばれ、サプリメントを服用したことによる「何となく効いている気がする」という見かけの改善、いわゆるプラセボの影響を差し引いて評価できるため、非常に信頼性の高い試験法です。

この試験では、鉄のサプリメントの服用によりヘモグロビン濃度の変化は見られなかったものの、フェリチンの濃度はサプリメント摂取前で11.67mg/dLに対し摂取後では20.82mg/dLに上昇しました。これは鉄のサプリメントの摂取により貯蔵鉄が増加し、貧血の症状が出る前に体が迅速に対処できる可能性を示唆していると言えるでしょう。

Iron supplementation maintains ventilatory threshold and improves energetic efficiency in iron-deficient nonanemic athletes

まとめ

持久力を要するマラソンは、スポーツ貧血になりやすい競技の一つです。定期的な検査を受けておくほか、普段の食生活でも鉄の摂取を心がけましょう。必要に応じて、鉄のサプリメントの摂取も推奨されます。

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